教えることの難しさ

塾講師の採用が決まり、今日がその初出勤だった。高校物理を教えることになり、練習問題の解答の解説をすればいいとのことだったので、最初はなんとかなるだろうと思っていたが、実際に教えてみてわかった。教えることは途方もなく難しい。

まず、物理学自体の難しさにぶつかる。物理学というと、最初に学ぶのは力学だろう。力学ではいきなり運動方程式天下り的に与えられ、それを使ってごちゃごちゃと速度や加速度を求めたり物体を投げたり落としたりしているうちに、運動量とか運動エネルギーとかいうわけわからん抽象的な概念が出てきて、その上さらに運動量やエネルギーが保存するらしいということを教わって、それらを使うと運動方程式だけじゃ解けなかった衝突や滑落の問題が解けちゃったりするらしいということを教わる。その時、どうしてそこで運動量が保存するの?とかどうしてエネルギーが保存するの?とかを考えなくちゃならない。大抵は問題をやっていくうちに感覚的にどの保存則が成立するかを考えなくてもわかるようになるんじゃないだろうか。しかし、それを初学者にちゃんと説明しようとすると、ものすごい時間がかかってしまうし、説明されてもふーんって感じでよくわからんと思う。さらに、物理学は現実の世界を適当に理想的な状態へモデル化し、その上で成り立つ物理法則を考えていくわけで、モデルと現実の世界とが乖離しているのだが、そのことをちゃんと自覚するのはもっと学習が進んだ段階だと思う。なので、最初から正確な説明をしたところで、それが相手の理解を助けているのかどうかわからない。それどころか、むしろ相手を混乱に陥れてしまっているのかも知れない。

教える側の頭の中には、これこれこういうわけでこうで、こうなのはこういうわけで…という論理が入っているのに、それを相手に言葉で伝えようとすると、途中の経路で情報のパケットがロストする。うまく情報の損失がなく相手に伝わったとしても、パケットを再構成して相手が自分と同じようなイメージを共有できているかどうかの確認のしようもない。つまるところ要するに、あれだ、長門有希風に言えば、情報の伝達に齟齬が発生するかもしれないってことだ。(←?)

そんな難しさを実感しつつも、せっかく時間を割いて塾に来てくれたんだから、その授業時間を無駄な時間にしたくないと思い、少しでも理解が進めばいいことを願って暗中模索ながら教え方を探した 90 分であった。